
はじめに:親が生活保護で亡くなったら…不安を解消し、やるべきことを整理しましょう
親御さんが生活保護を受給中に亡くなられたと聞き、心よりお悔やみ申し上げます。突然のことで、深い悲しみとともに「これから何をすればいいのだろう」「葬儀代や手続きの費用はどうなるのか」といった大きな不安を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
生活保護を受けていた場合の逝去後の手続きは、一般的なケースとは異なる点がいくつかあり、戸惑われるのも無理はありません。しかし、事前にやるべきことの流れと利用できる制度を知っておけば、落ち着いて対応することが可能です。
この記事では、生活保護を受給していた親が亡くなった際に必要な手続き、費用の問題、相続の注意点などを網羅的に解説します。この記事を最後まで読めば、あなたの不安が解消され、具体的な行動計画を立てられるようになるはずです。一つずつ確認していきましょう。
【時系列】親が生活保護で亡くなったらやるべきことリスト
親が亡くなられた直後は、動揺して何から手をつけて良いか分からなくなりがちです。まずは、手続きの全体像を時系列で把握しましょう。大まかな流れを知っておくだけでも、精神的な負担は軽くなります。各ステップの詳細は、後の章で詳しく解説します。
ステップ1:逝去直後(〜24時間以内)
- 死亡診断書(または死体検案書)の受け取り
- 葬儀社の選定・連絡
- 親族や関係者への連絡
ステップ2:葬儀の準備(〜数日以内)
- 福祉事務所(ケースワーカー)へ連絡し、葬祭扶助の相談・申請
- 葬儀社と火葬の日程などを打ち合わせ
ステップ3:役所・福祉事務所での手続き(〜14日以内)
- 死亡届の提出と火葬許可証の受け取り(通常7日以内)
- 世帯主の変更届(必要な場合)
- 年金や健康保険の資格喪失手続き
- 生活保護の廃止手続き
ステップ4:相続と遺品整理(〜3ヶ月以内)
- 故人の財産(預貯金など)と負債(借金など)の調査
- 相続放棄をするかどうかの検討・判断(期限は3ヶ月以内)
- 遺品整理と賃貸アパートの退去手続き
【費用と手続き】生活保護の葬儀と「葬祭扶助」を徹底解説
親が亡くなった際、最も心配なのが葬儀費用ではないでしょうか。経済的に困窮している場合、生活保護制度の「葬祭扶助」を利用することで、自己負担なく葬儀(火葬)を行える可能性があります。この制度を正しく理解し、活用しましょう。
葬祭扶助制度とは?自己負担ゼロで葬儀ができる公的扶助
葬祭扶助とは、生活保護法に基づき、困窮のために葬儀を行うことができない場合に、その費用を自治体が支給する制度です。故人が生活保護受給者であった場合、または葬儀を行う遺族(喪主)が生活困窮の状態にある場合に利用できます。あくまで「最低限度の葬儀」を保障する制度であり、火葬を執り行うための費用が支給されるのが一般的です。これにより、経済的な不安なく故人を見送ることが可能になります。
葬祭扶助の対象者と支給金額の目安
支給対象となる人
葬祭扶助の対象となるのは、主に以下のケースです。
- 遺族(扶養義務者)が生活に困窮しており、葬儀費用を負担できない場合
- 故人に遺族がおらず、家主や民生委員などが葬儀を手配する場合
故人が生活保護受給者だったからといって、自動的に扶助が受けられるわけではありません。葬儀を執り行う喪主や扶養義務者に支払い能力があると判断されれば、対象外となるため注意が必要です。
支給される金額は地域によって異なる
葬祭扶助の支給額は、自治体が定める基準によって決まります。金額は地域や年度によって異なり、例えば大都市と地方では上限額に差があります。一般的に、大人で20万円前後が基準とされていますが、正確な金額は必ず管轄の福祉事務所に確認してください。この金額の範囲内で、検案、遺体の運搬、火葬、骨壷など、火葬に必要な最低限の費用が支払われます。
葬祭扶助の申請方法と必要なもの
申請の流れとタイミング
葬祭扶助を利用するためには、必ず火葬を行う前に申請手続きを完了させる必要があります。事後の申請は認められないため、タイミングが非常に重要です。まずは、故人がお世話になっていた福祉事務所のケースワーカーに速やかに電話で連絡し、葬祭扶助を利用したい旨を伝えましょう。担当者から今後の流れについて指示があります。
申請に必要な書類一覧
申請に必要な書類は自治体によって多少異なりますが、一般的には以下のものが求められます。
- 葬祭扶助申請書(福祉事務所で受け取る)
- 死亡診断書(コピー)
- 申請者の身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 申請者の収入状況がわかるもの(預貯金通帳、給与明細など)
- 葬儀費用の見積書(葬儀社が作成)
注意点:葬祭扶助では「できない」こと
通夜や告別式は原則行えない(火葬式・直葬のみ)
葬祭扶助は、あくまで社会的な慣習として最低限必要な「火葬」を保障する制度です。そのため、通夜式や告別式といった儀式的な要素は扶助の対象外となります。行えるのは、安置場所から直接火葬場へ搬送し、火葬のみを行う「直葬(火葬式)」と呼ばれる形式です。一般的なお葬式のイメージとは異なることを理解しておきましょう。
読経など宗教的な儀式は対象外
上記の理由から、僧侶による読経やお布施、戒名料といった宗教儀礼にかかる費用も葬祭扶助の対象にはなりません。もし、どうしても読経をあげてほしいと希望する場合は、自己負担で行う必要があります。ただし、その費用を故人の遺留金から支払うと、後述する相続の問題に影響が出る可能性があるため、福祉事務所のケースワーカーに事前に相談することが賢明です。
【財産と借金】相続はどうなる?相続放棄の手続きと注意点
生活保護を受けていた親が亡くなった場合、葬儀と並行して「相続」の問題にも向き合う必要があります。プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象となるため、慎重な判断が求められます。
まず確認:故人のプラスの財産とマイナスの財産
相続の手続きを進めるにあたり、まずは故人(被相続人)の財産状況を正確に把握する必要があります。財産には、預貯金、不動産、有価証券などの「プラスの財産」と、借金、ローン、未払いの税金や医療費などの「マイナスの財産」があります。通帳や郵便物、契約書類などを確認し、財産の全体像を明らかにしましょう。この調査結果が、相続するか、あるいは放棄するかの重要な判断材料となります。
生活保護費の返還義務は原則ない!ただし例外ケースも
「親が受給していた生活保護費を、相続人である自分が返還しなくてはならないのでは?」と心配される方がいますが、原則として、遺族に生活保護費の返還義務はありません。生活保護は故人一代限りの権利であり、相続の対象にはならないためです。ただし、以下のような特殊なケースでは、返還や徴収の対象となる可能性があります。
不正受給が発覚した場合
故人が収入を偽って申告するなど、悪質な不正受給をしていたことが死亡後に発覚した場合、自治体は相続人の財産から不正受給分を徴収する権利があります。この場合、相続人はその支払い義務を引き継ぐことになります。
資力があるのに申告していなかった場合
故人に隠し持っていた預貯金や不動産などの資産(資力)があったにもかかわらず、それを申告せずに生活保護を受給していたことが判明した場合も、返還の対象となります。死亡後に見つかった財産から、これまで支給された保護費の一部または全部を返還するよう求められることがあります。
借金が多い場合は「相続放棄」を検討する
故人の財産調査の結果、プラスの財産よりも明らかに借金などのマイナスの財産が多い場合は、「相続放棄」を検討するのが一般的です。相続放棄をすれば、初めから相続人ではなかったことになり、借金の支払い義務も一切なくなります。
相続放棄の手続きと3ヶ月の期限
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して行います。この3ヶ月という期間は非常に短いため、財産調査は迅速に進める必要があります。手続きに不安がある場合は、司法書士などの専門家に相談することを検討しましょう。
注意!故人の預貯金(通帳)に手を付けると相続放棄できなくなる
相続放棄を検討している場合に、最も注意すべき点です。故人の財産の一部でも処分したり、使用したりすると、相続する意思があるとみなされ(単純承認)、原則として相続放棄ができなくなってしまいます。具体的には、以下のような行為が該当します。
- 故人の預貯金を引き出して葬儀費用以外に使う
- 故人の遺品を形見分け以外の目的で売却する
- 故人名義の不動産や自動車の名義を変更する
相続放棄の可能性がある場合は、故人の財産には一切手を付けず、速やかに家庭裁判所での手続きを進めてください。
【住まいの問題】アパートの退去費用と遺品整理は誰が負担する?
故人が賃貸アパートで一人暮らしをしていた場合、遺品整理と部屋の明け渡しという問題が発生します。これらの費用負担についても、相続と密接に関わってきます。
賃貸アパートの退去費用・原状回復費用の負担者
原則として相続人が負担する
故人が借りていたアパートの家賃滞納分や、退去時の原状回復費用、遺品整理にかかる費用などは、故人の債務(マイナスの財産)とみなされます。そのため、原則として、これらの費用は相続人が法定相続分に応じて負担する義務があります。大家さんや管理会社から請求された場合は、相続人が対応しなければなりません。
相続放棄をした場合の支払い義務
家庭裁判所で正式に相続放棄の手続きが受理された場合、プラスの財産を相続する権利を失う代わりに、借金や未払い家賃、退去費用などの支払い義務も一切なくなります。大家さんや保証会社から請求があっても、相続放棄をした事実を証明する「相続放棄申述受理通知書」を提示すれば、支払いに応じる必要はありません。
連帯保証人になっている場合は支払い義務が生じる
最も注意が必要なのは、あなたが故人の賃貸契約の「連帯保証人」になっているケースです。連帯保証人の責任は相続とは別の契約であるため、たとえ相続放棄をしたとしても、連帯保証人としての支払い義務は残ります。大家さんから滞納家賃や原状回復費用を請求された場合、これを拒否することはできません。契約書を確認し、自分が連帯保証人になっていないか必ず確認しましょう。
遺品整理は誰が行う?費用を抑える方法
遺品整理を行う義務も、基本的には相続人にあります。しかし、遠方に住んでいたり、時間がなかったりして自分たちで片付けるのが難しいケースも多いでしょう。専門の遺品整理業者に依頼することもできますが、費用が発生します。費用を抑えたい場合は、まず福祉事務所や地域の社会福祉協議会に相談してみましょう。自治体によっては、ボランティアの紹介や費用の助成制度がある場合があります。
【生前準備】もしもの時に備え、親子で確認しておきたいこと
この記事を読んでくださっている方の中には、まだ親御さんがご健在な方もいらっしゃるかもしれません。もしもの時に慌てないために、そして何より本人の希望を尊重するために、できる範囲で生前に話し合っておくことが大切です。
葬儀やお墓に関する本人の希望
「葬儀はしないで火葬だけでいい」「お墓は〇〇に入りたい」など、本人に希望があるかを聞いてみましょう。元気なうちには話しにくい話題かもしれませんが、意思を確認しておくことで、遺された家族の判断の助けになり、後悔を防ぐことにも繋がります。
財産や負債の状況
生活保護を受けているから財産はないと思いがちですが、少額の預貯金や、本人が忘れている借金が存在する可能性もあります。大まかな状況だけでも把握しておくことで、いざという時の相続手続きがスムーズに進みます。特に、誰かの借金の保証人になっていないかは重要な確認事項です。
エンディングノートの活用
直接話しにくい場合は、自分の情報を記録しておく「エンディングノート」を書いてもらうのも一つの方法です。エンディングノートには、本人の情報、財産、葬儀の希望、連絡してほしい友人リストなどを書き留めておくことができます。法的な効力はありませんが、遺された家族にとっては非常に貴重な情報源となります。
まとめ:親が生活保護で亡くなっても、落ち着いて一つずつ手続きを進めましょう

親が生活保護を受けている中で亡くなられた場合、やるべき手続きが多く、精神的にも金銭的にも大きな負担を感じることでしょう。しかし、一つずつやるべきことを整理し、利用できる制度を正しく理解すれば、道筋は見えてきます。
最も重要なのは、一人で抱え込まず、すぐに専門機関に相談することです。まずは福祉事務所のケースワーカーに連絡し、指示を仰ぎましょう。葬儀については葬祭扶助、借金については相続放棄という選択肢があります。この記事のチェックリストや解説を参考に、落ち着いて対応を進めていってください。
「親が生活保護で亡くなったら」に関するよくある質問
親が亡くなった後の手続き全般について
まず行うべきことは、死亡診断書を受け取り、福祉事務所(ケースワーカー)へ連絡することです。その後、7日以内に役所へ死亡届を提出し、火葬許可証を受け取ります。並行して、葬祭扶助の申請や葬儀の準備を進めるのが一般的な流れです。年金や健康保険の資格喪失手続きも忘れずに行いましょう。
葬儀や葬祭扶助の費用について
葬儀を行う遺族が経済的に困窮している場合、福祉事務所に申請して「葬祭扶助」を利用できる可能性があります。この制度を使えば、自己負担なく火葬を行えます。ただし、通夜や告別式はできず、直葬(火葬式)のみとなります。支給される金額は自治体によって異なるため、まずはケースワーカーへの相談が必要です。
生活保護費の返金や相続放棄について
故人が正しく生活保護を受給していた場合、遺族に保護費の返還義務は生じません。ただし、故人に借金などのマイナスの財産が多い場合は、「相続放棄」を検討すべきです。相続放棄は、亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で行う必要があります。一度、故人の預金を使うなどすると放棄できなくなるため注意が必要です。
アパートの退去や遺品整理はどうなる?
アパートの未払い家賃や退去費用、遺品整理の義務は原則として相続人に引き継がれます。しかし、相続放棄をすれば、これらの支払い義務もなくなります。ただし、ご自身がアパートの「連帯保証人」になっている場合は、相続放棄をしても支払い義務が残るため、契約書の確認が不可欠です。
遺骨や納骨はどうなりますか?
葬祭扶助で賄われるのは火葬までです。火葬後の遺骨は、喪主(遺族)が引き取ることになります。お墓への納骨や永代供養を希望する場合、その費用は自己負担となります。もし遺骨の引き取り手が誰もいない場合は、最終的に自治体によって無縁仏として合祀されることになります。
離婚した・疎遠だった親が亡くなった場合はどうすればいい?
たとえ離婚や疎遠で長年交流がなかったとしても、法律上の親子関係があれば、あなたは「相続人」となります。そのため、遺体の引き取りや火葬を行う義務が生じることがあります。ただし、喪主になることを強制されるわけではありません。借金があれば相続放棄も可能です。状況が複雑なため、まずは福祉事務所や自治体の窓口に相談してください。