大切なご家族を亡くされ、心からお悔やみ申し上げます。故人様とのお別れは、できるだけ安らかなお姿のままで、ゆっくりと時間をかけて偲びたいと願うのは当然のことです。しかし、葬儀までの間にお体の状態が変化してしまうのではと、ご不安に思う方も少なくありません。
この記事では、そのようなお悩みを解消するため、故人様の尊厳を守る「エンバーミング」について解説します。エンバーミングの目的やメリット・デメリット、具体的な費用と流れを詳しく知ることで、後悔のないお別れのための最善の選択ができるようになります。
エンバーミングとは?故人の尊厳を守る処置

エンバーミングは、ご遺体に防腐・殺菌・修復などの処置を施し、衛生的に保全する技術のことです。「遺体衛生保全」とも呼ばれ、故人様の尊厳を守り、ご遺族が安心して最期の時間を過ごすための大切な役割を担っています。
エンバーミングの基本的な目的と意味
エンバーミングの最も基本的な目的は、ご遺体に防腐剤を注入する防腐処理を行い、腐敗の進行を遅らせることです。これにより、ご遺体を長期間にわたり衛生的に保全することが可能となり、「遺体衛生保全」という本来の意味を果たします。
また、消毒や殺菌も同時に行われるため、公衆衛生上の安全性を確保する上でも重要な意味を持ちます。故人様のお体を清潔な状態に保ち、ご遺族が安心して触れることができる環境を整えることが、この処置の大きな目的です。
故人の尊厳を守るグリーフケアの一環
エンバーミングは、単なるご遺体の保全技術ではありません。闘病生活でやつれたお顔や、事故などで損傷したお体を修復し、生前の安らかなお姿に近づけることで、故人様の尊厳を守ります。穏やかな表情の故人様と対面することは、ご遺族の悲しみを癒す助けとなります。
変わり果てた姿ではなく、思い出の中にあるお元気だった頃のお姿を偲びながらお別れができる時間は、ご遺族にとってかけがえのないものです。このように、エンバーミングは残されたご家族の心のケアという、グリーフケアの重要な一環でもあるのです。
日本のエンバーミング事情と歴史的背景
エンバーミングの起源は古代エジプトのミイラ作りにまで遡ると言われています。現代の技術は南北戦争時代のアメリカで確立され、日本では1988年に本格的に導入されました。現在では、専門の資格を持つエンバーマーによって施術が行われています。
近年、家族葬の増加や火葬場の混雑により、ご遺体を安置する期間が長くなる傾向にあります。そのため、日本でもエンバーミングの必要性が高まっており、後悔のないお別れを望む多くの方々に選ばれるようになってきています。
エンバーミングが必要になるケースと目的

エンバーミングは、すべてのご葬儀で必須というわけではありません。しかし、特定の状況下においては、故人様とご遺族のために非常に有効な選択肢となります。具体的にどのようなケースで必要とされ、どんな目的で施されるのかを見ていきましょう。
葬儀まで日数が空く場合の遺体保全
火葬場の予約が取りにくい、あるいは遠方の親族が駆けつけるのを待つなど、様々な理由で葬儀まで日数が空いてしまうことがあります。一般的なご安置ではお体の変化が避けられないため、ご遺族の精神的な負担が大きくなる可能性があります。
エンバーミングを施すことで、ご遺体の腐敗を抑制し、長期間の安置を可能にします。ご遺体の状態を心配することなく、葬儀まで心穏やかに過ごすための遺体保全が、この場合の大きな目的となります。処置後、どのくらいもつかは状況によりますが、10日~2週間程度は衛生的に保てます。
長距離の搬送が必要なときの目的とは
故人様が故郷から離れた場所で亡くなられた場合や、海外への搬送が必要なケースがあります。飛行機などで長距離を移動する際、ご遺体を安全かつ衛生的に保つことが法律や規定で求められることが多く、エンバーミングがその条件を満たします。
この場合の目的は、腐敗や臭いの発生を防ぎ、感染症のリスクをなくすことです。特に国際間の搬送では、エンバーミングが義務付けられている国も少なくありません。故人様を無事に目的地までお連れするための不可欠な処置と言えるでしょう。
感染症予防と公衆衛生上の安全性確保
故人様が感染症を患っていた場合、ご遺体からの二次感染のリスクが懸念されます。エンバーミングのプロセスには、徹底した消毒・殺菌処置が含まれており、ご遺族や葬儀関係者が安全に故人様と接することを可能にします。
これにより、感染症の拡大を防ぎ、公衆衛生上の安全性を確保するという社会的な目的も果たします。ご遺族が安心して故人様に触れ、直接お別れを告げる機会を守るためにも、感染予防は非常に重要な意味を持ちます。
お体を修復し生前の安らかな姿に近づける
不慮の事故や長年の闘病生活により、お体に損傷があったり、お顔がやつれてしまったりすることがあります。エンバーミングでは、そのようなお体の損傷を修復し、お元気だった頃のふっくらとしたお顔立ちや肌の色つやを取り戻すことが可能です。
ご遺族の記憶にある安らかなお姿で最後のお別れができるよう、見た目を整えることも大切な目的の一つです。辛い記憶を和らげ、美しい思い出と共に故人様を送り出すための、心のこもった処置と言えるでしょう。
エンバーミングのメリットとデメリット

故人様とのお別れの形を考える上で、エンバーミングは有力な選択肢ですが、メリットだけでなくデメリットも理解しておくことが重要です。両方の側面を正しく把握し、ご家族で十分に話し合って後悔のない判断をしましょう。
心穏やかに故人と対面できるメリット
エンバーミングの最大のメリットは、故人様のお姿が生前の安らかな状態に近づくことです。肌の色つやが戻り、穏やかな表情で眠っているかのように見えるため、ご遺族は心穏やかに故人様と対面できます。お体に触れたり、傍で語りかけたりすることも可能です。
腐敗や臭いの心配がないため、ご自宅のリビングなど、普段過ごしていた空間にご安置することもできます。思い出の場所でゆっくりと最期の時間を過ごせることは、ご遺族にとって大きな慰めとなり、深い悲しみを癒す助けとなるでしょう。
ゆっくりお別れの時間を確保できる安心感
ご遺体を長期間衛生的に保てるため、葬儀日程を急ぐ必要がなくなります。これにより、海外や遠方に住む親族が駆けつける時間を十分に確保でき、参列を希望するすべての方がお別れに参加できるというメリットが生まれます。
また、火葬場の空き状況に左右されず、ご家族の希望する日程で葬儀を執り行える安心感もあります。時間に追われることなく、故人様を偲び、語り合う豊かなお別れの時間を確保できることは、何よりの利点です。
知っておくべき費用面などのデメリット
エンバーミングには専門的な技術と設備が必要なため、一定の費用がかかります。一般的な葬儀費用に加えて、全国相場で15万円から25万円程度の追加費用が発生することがデメリットとして挙げられます。費用はご遺体の状態や依頼する業者によって変動します。
また、処置の過程でご遺体の一部を切開し、体内の血液や体液を防腐剤と入れ替える処置を行います。故人様のお体にメスを入れることに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。処置内容を事前にしっかり理解しておくことが大切です。 エンバーミングは必要か迷ったら、専門家の意見も参考にしましょう。
後悔や失敗を避けるための注意点
エンバーミングを行うかどうかは、ご遺族全員で話し合い、同意を得ることが不可欠です。中には、故人の体に手を加えることに宗教的な観点や個人の価値観から反対する方もいるかもしれません。後々のトラブルや後悔を避けるためにも、事前の合意形成が重要です。
また、エンバーミングは一度施すと元に戻すことはできません。信頼できる業者を選び、処置内容や費用について十分な説明を受け、納得した上で依頼することが失敗を避けるための鍵です。少しでも疑問や不安があれば、遠慮なく質問するようにしましょう。
エンバーミングの具体的な流れと費用相場

エンバーミングを実際に検討する際には、どのような手順で進められるのか、そしてどれくらいの費用がかかるのかを具体的に知っておくことが大切です。ここでは、ご依頼から処置完了までの流れと、費用の内訳や相場について詳しく解説します。
ご遺体の搬送から処置完了までの流れ
エンバーミングは、専門の施設(エンバーミングセンター)で行われます。一般的な流れは以下の通りです。この一連の手順を経て、故人様はご自宅や斎場に戻られます。全体の所要時間は通常3~4時間程度です。
- 1. 依頼と同意:葬儀社を通じてエンバーミングを依頼し、ご遺族が処置に関する同意書に署名します。
- 2. ご遺体の搬送:寝台車でご遺体をエンバーミングセンターへお連れします。
- 3. 処置の実施:資格を持つエンバーマーが専門的な処置を行います。
- 4. ご納棺とご安置:処置後、お着替えやお化粧を施し、お棺に納めてご指定の場所(ご自宅や斎場)へお連れします。
ご依頼からご安置まで、葬儀社が責任を持って手配しますのでご安心ください。故人様のお体を丁寧にお預かりし、尊厳を守りながら処置を進めていきます。
エンバーマーによる専門的な施術内容
エンバーマーは、解剖学などの専門知識と高度な技術を持つ専門家です。施術は主に、ご遺体の洗浄・消毒から始まります。次に、動脈から防腐剤を注入し、同時に静脈から血液を排出します。これにより、体内からの腐敗を根本的に防ぎます。
その後、腹部に残った体液やガスを吸引し、体腔内にも防腐剤を注入します。最後に、お体の損傷部分の修復、お顔の表情を整える処置、そしてお化粧(メイク)を施し、お着替えをして完了です。故人様一人ひとりの状態に合わせた丁寧な処置が行われます。
処置にかかる費用の内訳と全国相場
エンバーミングの費用は、依頼する葬儀社や専門業者、地域によって異なりますが、全国的な相場は15万円~25万円程度です。この費用には、基本的な処置一式が含まれていることがほとんどです。事前に費用の内訳を必ず確認しましょう。
以下は、一般的な費用の内訳例です。ご遺体の状態によっては、特別な修復費用などが追加でかかる場合もあります。契約前に総額の見積もりを提示してもらうことが大切です。
| 項目 | 内容 | 費用目安 |
|---|---|---|
| 基本料金 | ご遺体の洗浄・消毒、防腐剤注入、化粧、着付けなど | 150,000円~250,000円 |
| 追加費用 | ご遺体の搬送料、特別な修復、長期安置料など | 別途見積もり |
信頼できる葬儀社や専門業者の選び方
大切な故人様をお任せするのですから、業者選びは慎重に行う必要があります。まずは、IFSA(日本遺体衛生保全協会)に加盟しているかどうかが一つの判断基準になります。IFSAは厳しい基準を設けており、加盟社は高い技術力と倫理観を持っています。
また、事前に処置内容や費用について、分かりやすく丁寧に説明してくれる業者を選びましょう。ご遺族の不安や疑問に寄り添い、納得できるまで対話に応じてくれる姿勢も重要なポイントです。複数の業者から話を聞き、比較検討することをおすすめします。
エンバーミングと他の処置の明確な違い

故人様のお体を整える処置には、エンバーミングの他に「エンゼルケア」や「湯灌(ゆかん)」などがあります。これらは混同されがちですが、目的や内容が異なります。それぞれの違いを理解し、故人様やご遺族の希望に合った方法を選びましょう。
エンゼルケアや死化粧との目的の違い
エンゼルケア(死後処置)や死化粧は、主に病院やご自宅で、看護師や納棺師によって行われる処置です。その目的は、ご遺体の表面的な清拭、口腔ケア、着替え、簡単な化粧などを施し、見た目をきれいに整えることにあります。
一方、エンバーミングは体内へのアプローチが中心です。防腐剤の注入による長期的な保全と、感染症予防を目的としており、専門の資格を持つエンバーマーが専用施設で行う医学的・化学的な処置である点が大きな違いです。エンゼルケアには、防腐効果はほとんどありません。
湯灌との処置内容や目的の相違点
湯灌は、故人様のお体をぬるま湯で洗い清める儀式です。来世への旅立ちの準備として、現世での穢れや苦しみを洗い流すという意味合いが込められています。ご遺族が立ち会いのもと、故人様への感謝を伝えながら行われることが多い、宗教的・精神的な儀式です。
エンバーミングが衛生保全という科学的な目的を持つのに対し、湯灌は故人様を敬い、清めるという儀式的な目的が主となります。湯灌にも清拭や着付けは含まれますが、エンバーミングのような防腐・殺菌・修復といった処置は行われません。
まとめ:後悔のないお別れのための選択

エンバーミングは、故人様の尊厳を守り、生前の安らかなお姿を保つための有効な処置です。腐敗や感染症を防ぐだけでなく、ご遺族が心穏やかに、そしてゆっくりと故人様とのお別れの時間を過ごすことを可能にします。これは、深い悲しみの中にあるご遺族にとって、大きな心の支えとなるでしょう。
費用や処置内容への抵抗感など、デメリットも確かに存在します。しかし、その目的とメリットを正しく理解し、ご家族で十分に話し合うことで、エンバーミングが「後悔のないお別れ」のための最善の選択となることもあります。故人様を想う気持ちを第一に、最適な形を見つけてください。
エンバーミングに関するよくある質問

エンバーミングの目的と処置内容とは?
エンバーミングの主な目的は、ご遺体に防腐・殺菌・修復を施す「遺体衛生保全」です。これにより、腐敗を防ぎ、感染症のリスクを低減させ、故人様のお体を長期間にわたり衛生的に保つことができます。
具体的な処置内容としては、専門資格を持つエンバーマーが、動脈から防腐剤を注入し、血液と入れ替えます。その後、お体の洗浄や修復、お化粧などを施し、生前の安らかなお姿に近づける処置を行います。
エンバーミングのデメリットや注意点は?
デメリットとしては、15万円から25万円程度の費用がかかることや、ご遺体の一部を切開する処置に対する心理的な抵抗感が挙げられます。また、宗教や個人の価値観によっては受け入れられない場合がある点も考慮が必要です。
注意点として、必ずご遺族全員の同意を得ることが重要です。後悔やトラブルを避けるため、事前に処置内容や費用について信頼できる葬儀社から十分な説明を受け、納得した上で依頼するようにしてください。
エンバーミングにかかる費用はいくら?
エンバーミングにかかる費用は、地域や業者、ご遺体の状態によって異なりますが、全国的な相場は15万円から25万円程度です。この料金には、基本的な防腐処置、洗浄、化粧、着付けなどが含まれるのが一般的です。
ただし、ご遺体の損傷が激しい場合の特別な修復や、長距離の搬送などが必要な場合は、追加費用が発生することがあります。必ず事前に総額の見積もりを確認し、費用の内訳について説明を受けることが大切です。
エンバーミングで遺体はどのくらい保てますか?
エンバーミングを施すことで、ご遺体は適切な環境下で通常10日から2週間程度、衛生的に保つことが可能です。これにより、火葬場の予約が先になる場合や、遠方の親族が到着するまで待つ場合でも、安心してご安置できます。
ただし、保存期間はご安置場所の温度や湿度、そして処置の内容によっても変わってきます。ドライアイスなどを併用することで、より長期間、安定した状態を保つことができます。詳細は依頼する専門家にご確認ください。
エンバーミングはどこに依頼すればいいの?
エンバーミングは、一般的に葬儀社を通じて依頼します。多くの葬儀社がエンバーミングの専門業者と提携していますので、まずは利用を検討している葬儀社に相談するのが最初の段階です。
信頼できる業者を選ぶためには、IFSA(日本遺体衛生保全協会)の加盟社であるかを確認したり、実績や評判を調べたりすることが有効です。ご遺族の気持ちに寄り添い、丁寧な説明をしてくれる葬儀社を選ぶことが、安心して任せるための鍵となります。