
人はいつ亡くなるか予測できないため、突然の訃報に際して金銭面で苦労される方も少なくありません。事前の準備が不足している場合、特に大変な状況に陥りがちです。
まとまった葬儀費用を急に用意することは難しく、故人の貯金で賄おうとした結果、思わぬトラブルに直面したという話もよく耳にします。

結論として、故人の貯金から葬儀費用を出すことは可能です。しかし、故人の口座が凍結された後では、手続きが複雑になる点に注意が必要です。
この記事では、口座凍結に関する情報も詳しくご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。また、生前に引き出す場合でも、ご親族間でのトラブルになる可能性がありますので、事前の確認が重要です。
この記事でわかること
- 故人の貯金を扱う上での注意点
- 口座凍結時の対処法
- どうしても切迫して払えない時に仮払いできる方法
故人の貯金から葬儀費用を捻出できますか?

故人の貯金は、亡くなられた時点で「貯金」ではなく「遺産」となります。この点は相続に関する事項と密接に関連しており、注意が必要です。
後々のトラブルを避けるためにも、事前に相続の基本をしっかりと理解しておくことが大切です。一般的な葬儀費用の負担者についても確認しておくと良いでしょう。
故人の貯金から葬儀費用を捻出することは可能です
故人の貯金から葬儀費用を捻出することは可能ですが、亡くなられた後、金融機関は遺産保護のため口座を一旦凍結します。凍結解除やその後の手続きには時間がかかり、非常に複雑です。
この複雑な手続きを避けたい場合は、故人がご生前のうちに、ご自身の口座から引き出しておく必要がございます。しかし、故人の口座から金銭を引き出す行為は、ご親族から反対されたり、批判されたりする可能性も考えられますので、慎重な検討が必要です。
相続税と控除について理解しましょう
故人の貯金は、亡くなられた時点で「貯金」ではなく「遺産」となるため、相続に関する税金も密接に関係してきます。特に相続税の課税対象については注意が必要です。
2015年の改正で相続税が増税されたこともあり、相続税の負担を抑えたいと考える方が多くいらっしゃることでしょう。ご安心ください、葬儀費用の中には相続税の課税対象とならない、いわゆる控除の対象となるものもございます。
相続税の控除対象
- 寝台車(故人のご遺体の搬送費用)
- 霊柩車(運転手へのお車代)
- 交通費(葬儀会場まで)
- お通夜や告別式にかかった費用
- 飲食費(通夜振るまい/精進落とし)
- スタッフへのお心づけ
- 寺院へのお布施
- 火葬や埋葬、納骨にかかった費用
- その他の通常葬儀に伴って発生した費用
領収書の発行が難しいものもございますが、何にいくら使用したかをきちんと記録して残しておくことが大切です。また、逆に控除の対象とならない費用もございます。
控除の対象にならないもの
- 参列者等への香典返しや返礼品
- お供え物の費用(喪主や施主の方以外がお供えしたお供え物)
- 位牌や仏壇の購入費用
- お墓を建てるため/購入するために発生した費用
- 法事(初七日法要や四十九日法要)を行う上で発生した費用
- 医学的、または裁判などで特別な処置を施した際に発生した費用(遺体をきれいに保存するエンバーミングなど)
- その他葬儀と関係のない費用
どの費用が控除の対象となり、どの費用が対象外であるかをよく確認しておくことが重要です。
葬儀費用支払い後の相続放棄は可能?
遺産で葬儀費用を賄うことについてお話ししましたが、故人の遺産に負債があった場合、それらも一緒に引き継ぐことになります。「葬儀費用は賄いたいけれど、負債は引き継ぎたくない」と考える方もいらっしゃるでしょう。
また、「遺産に手を付けてしまうと相続放棄できなくなるのでは」と不安に感じるかもしれません。そこで、葬儀費用支払い後に相続放棄が可能かどうかについて、詳しく解説いたします。
相続の種類について
相続を考える上で、知っておくべき3つの種類をご紹介いたします。これらを理解しておくことが、適切な判断につながります。
それは、単純承認、限定承認、そして相続放棄です。
単純承認→負債も含め全ての遺産を相続すること
限定承認→相続財産から負債を引いた金額がプラスになる場合は相続すること
相続放棄→一切の遺産を相続することを放棄すること
相続放棄を選択する場合、通常は遺産を少しでも使用してはならないという決まりがあります。もし故人の遺産を使用し、単純承認と見なされてしまうと、相続放棄や限定承認はできなくなってしまいますので、故人に負債があり相続放棄を検討している場合は、財産の管理に十分注意が必要です。
葬儀費用の支払いは単純承認と見なされない例外があります
「葬儀費用を故人の遺産から支払うのは単純承認に該当するのではないか」と思われるかもしれませんが、遺産を葬儀費用に使用するケースは例外として、残りの遺産を放棄しても問題ないとされています。
これは、過去の裁判において、葬儀が故人にとって最低限必要な社会的儀式であるとの判決が下されたためです。葬儀を行う際にお金がない状況で故人の遺産を使用しないことは、むしろ非常識であるとの判断が示されています。
ただし、この相続放棄が認められるのは、葬儀費用が社会通念上妥当な金額である場合に限られます。例えば、家族葬で200万円といった高額すぎる場合は、単純承認と見なされてしまうこともあり、その場合負債まで相続することになりますので、十分ご注意ください。
故人名義の口座凍結について

故人が亡くなられた後、その貯金からお金を引き出そうとした際に、すでに口座が凍結されていて引き出せないという状況に直面することがあります。
この口座凍結は、金融機関が故人の遺産を保護するために行われる重要な措置です。
金融機関が故人の遺産を守るために凍結します
故人の貯金は、お亡くなりになった時点で「貯金」ではなく「遺産」となります。金融機関が故人の口座を凍結する主な理由としては、遺産の権利が不当に侵害されるのを防ぎ、相続に関係のない人物が勝手に金銭を引き出すことを阻止するためです。
もしご親族の了承なしに誰かが勝手にお金を引き出してしまった場合、当然ご親族間でトラブルが生じます。この際、口座を管理する金融機関が誰でも引き出せる状態にしていれば、そのトラブルに巻き込まれる可能性が高まります。
このような事態を防ぐためにも、金融機関は一旦口座を凍結するという措置を取るのです。一度口座が凍結されると、相続が確定するまでは金銭を引き出すことができません。これには公共料金の引き落とし、クレジットカードの引き落とし、ローンの返済なども含まれますので、注意が必要です。
凍結した口座を解除する方法
凍結された口座を解除する方法は、いくつかございます。ご自身の状況に合わせて、適切な手続きを選ぶことが重要です。
- 遺言書で貯金を受け取れる人が決まっている場合
- 遺産分割協議書(相続人全員が遺産の割り振りに同意したことを書面にてまとめた物)がすでにある場合
- 調停等により貯金を受け取る人が決まっている場合
金融機関によって口座解除の手続き方法や必要書類が異なるため、事前に確認することが大切です。このように、一度口座が凍結されてしまった後の解除手続きには、非常に複雑な手順が必要となります。
遺言書があれば凍結解除の手続きはスムーズになります
口座解除の手続きにおいて、「遺言書」の有無は非常に重要なポイントとなります。遺言書があれば、原則として被相続人と遺言執行者に関する書類(家庭裁判所に遺言書の開封・執行を依頼します)を揃えることで、口座凍結を解除することが可能です。
では、遺言書がない場合はどのように進めるのでしょうか。まずは、故人の遺産を誰が相続するのかについて、ご親族間で話し合いを行います。話し合いがまとまったら、以下の書類を揃えるようにしましょう。
- 遺産分割協議書
- 払い戻し依頼書(各銀行の所定のもの)
- 故人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 印鑑
- 通帳やキャッシュカードなど
ここで重要なのは、「相続人全員」の書類を揃えることです。相続争いが起きたり、音信不通の相続人がいる場合、これらの書類を集めるのに大変な手間と時間がかかります。また、調停などにより貯金を受け取る人が決まっている場合には、遺産分割協議書は必要ございません。
- 遺言書
- 故人の除籍謄本
- 遺言を執行した人の印鑑証明書
- 遺言を執行した人の実印が押された払い戻し依頼書
上記の書類や持ち物はあくまで一例ですので、詳細は各金融機関へ直接確認されることをお勧めいたします。
相続に役立つ遺言書の種類と注意点
口座解除の手続きにおいて「遺言書があるかないか」が重要なポイントです。遺言書は主に3種類に分けられ、それぞれに異なる特徴と注意点があります。
- 自筆証書遺言書→全文自筆の遺言書
- 公正証書遺言→故人(遺言者)が述べたことを公証人が筆記して作成する遺言書
- 秘密証書遺言→公証人が故人(遺言者)の申述を記載する遺言書
自筆証書遺言書は、全文を自筆で書くためいつでも修正が可能で、作成費用がかからない点がメリットです。しかし、自筆で書くという特性上、不備があった場合は遺言書としての効力を失ってしまいます。また、パソコンで作成されたものは認められず、自筆のもののみが有効です。
公正証書遺言は、公証人が作成に関わるため、内容に不備がない点が大きなメリットです。ただし、作成を依頼する費用や二人以上の証人の用意が必要となります。また、修正の都度費用がかかるため、安易に修正できない点がデメリットと言えるでしょう。
秘密証書遺言は、誰にも遺言書の内容を知られたくない場合に作成されます。遺言書自体はパソコンで作成しても問題ありません。しかし、亡くなった後に証人によって開封される形となり、不備があった場合は無効になってしまう可能性があります。
【40年ぶりの相続法改正】凍結後も上限150万円まで引き出し可能に

「葬儀費用が必要なのに、故人の預金が引き出せない」とお困りの方に朗報です。2019年7月の相続法改正により、これまでは相続人全員の同意がなければ引き出せなかった故人の預金が、単独の相続人だけでも引き出し可能となりました。
この制度を利用した引き出し方法には、家庭裁判所を通す方法と金融機関に直接依頼する方法の2通りがあります。ただし、この制度を使ってお金を引き出した場合、相続放棄ができなくなる可能性があること、またあくまで仮払いであり、後で通常の口座凍結解除手続きが必要となる点に留意し、よく検討されることをお勧めいたします。
家庭裁判所を通して行う場合
家庭裁判所を通して引き出す場合は、故人の預金の用途を明確にし、申し立てを行う必要があります。この方法では、払い戻し金額に上限は設けられていません。
つまり、150万円を超える金額でも引き出しが可能ですが、払い戻しが完了するまでに時間がかかるという点にご留意ください。
金融機関に依頼する場合
金融機関に直接依頼する場合、出金できる金額は上限150万円となりますが、以下のいずれか低い方が適用されます。
- 故人が亡くなった時の貯金残高×法定相続分×3分の1
- 上限150万円
つまり、上記の計算で150万円以下の金額が出た場合は、その金額が上限として適用されます。また、この制度でお金を引き出す際に必要となる主な書類は以下の通りです。
- 故人の戸籍謄本
- 相続人(引き出す人)の身分証明書(マイナンバー等)
- 相続人(引き出す人)の印鑑証明書
- 引き出すに当たって必要な申請書
故人の預金口座が複数ある場合は、その分引き出せる金額も増える可能性があります。
故人の貯金から葬儀費用を捻出する際の注意点

故人の貯金から葬儀費用を捻出する際には、いくつかの重要な注意点がございます。これらを事前に把握しておくことで、後々のトラブルや手続きの煩雑さを避けることができます。
特に記録の保管とご親族間の合意形成は、円滑な手続きのために不可欠です。
記録はしっかりとっておきましょう
故人の貯金から葬儀費用を賄い、口座凍結が解除されたとしても、そこで終わりではありません。なぜなら、相続税の納税は死後10ヶ月以内に完了する必要があるためです。その際に、税金の控除を受けることが重要になります。
控除を確実に受けるためにも、葬儀費用の領収書や請求書は必ず保管し、何にいくら使用したかを詳細に記録しておくようにしましょう。また、寺院へのお布施やスタッフへのお心付けなど、領収書やレシートの発行が難しいものについては、日付と金額、用途を記したメモを作成しておくことをお勧めします。
生前に引き出す場合の注意点
生前に故人の口座から金銭を引き出しておくことは、口座凍結解除といった面倒な手続きを避けられる点で、ある程度有効な手段と言えます。しかし、血の繋がったご親族であっても、故人の口座から勝手に金銭を引き出す行為は、あまり好意的に受け取られません。
相続という金銭の問題は、ご親族間の関係を冷え込ませるだけでなく、裁判に発展するケースや、最悪の場合ご親族との縁が一生断ち切られるような大きなトラブルに発展する可能性もございます。自己判断で引き出す行為はそれだけリスクが高いものですので、故人がご生前のうちに、ご本人やご親族(相続人)と十分に話し合い、合意を得ておくことが大切です。
まとめ
- 故人の貯金から葬儀費用は捻出できる
- 口座凍結されると解除まで煩雑な手続きが必要だが遺言書があれば手続きしやすい
- 相続法の改正で故人の貯金からお金が引き出せるように
- 相続税の控除を受けるためにも領収書を取っておくこと
- 生前に引き出す際はトラブルに注意
故人の貯金から葬儀費用を賄えるかどうかについてご紹介いたしました。相続や口座凍結など、複雑に絡み合った大変な部分も多いかもしれません。葬儀費用について一人で解決しようとせず、ご親族との話し合いを重ねることが重要です。
また、ご不明な点があれば、迷わず葬儀社や金融機関に相談してみてください。専門家のアドバイスが、円滑な手続きの助けとなります。
亡くなった後もアフターフォローが充実している葬儀社を選びましょう

今回ご紹介した口座凍結の解除や相続に関する手続き以外にも、故人が亡くなられた後にはやるべきことが数多くございます。一度葬儀を終えたからといって、それで全てが終わるわけではありません。
法要、遺品整理、お墓の手配など、多岐にわたる手続きが必要となります。エンディングデータバンクが行った調査では、喪主を経験した方の7割以上が、葬儀で最も大変だったことは「葬儀後の各種手続き」と回答しています。
これらの手続きは経験する機会が少ないため、戸惑ってしまう方も少なくありません。そんな時に、何度でも無料で相談に乗ってくれる葬儀社を選ぶのがお勧めです。
多くの方が葬儀費用を重視して葬儀社を選びますが、アフターフォローの面で選ぶ方はまだ少ないようです。もし葬儀社選びで迷われている場合は、アフターフォローが充実している葬儀社を選ぶと、後々も安心してサポートを受けられます。